NAR-0041 / 物語(Narrative) / カテゴリ:サピエンス

文字

Writing

確度 B有力だが異説あり
発生年代
前3400年〜前3200年頃(ウルクの原楔形文字)/前1300年頃(殷の甲骨文)
中核テキスト
(なし)
中核概念
主権、階級、進歩
伝播経路
ウルク期の会計記録に始まる楔形文字体系が神殿・王宮の行政とともに西アジアへ広がり、エジプト、インダス、中国、メソアメリカでは独立あるいは刺激伝播により別系統の書記体系が成立した。前2千年紀の西セム系子音文字はフェニキアの交易網を通じてギリシアおよびイタリア半島へ伝わり、アルファベット系文字の祖型となった。近代以降は印刷術、義務教育による識字の普及、文字コードの標準化が伝播の条件となった。
現在の信奉者規模
測定不能(識字率の統計(ユネスコ等)は存在するが、信奉という単位が適用できない。文字の起源については複数地域での独立発生説と刺激伝播説があり、また原楔形文字を「文字」とみなす基準自体に議論があるため確度をBとした。中核概念は記録・権威・行政といった中心語彙が本表のCONに存在しないため近似にとどまり、対応は弱い。)
対抗物語
(なし)
現代への影響
法典、契約、官僚制、経典、学術論文といった長距離・長期の情報伝達を担う制度の前提をなす。デジタル化以降も、記録の真正性、長期保存、アクセスの設計は文字を基盤とする制度の延長として論じられている。

関連する関係レコード

派生 Derivation 文字 → 法 確度B

王の裁定と債務・所有の記録が文字により固定されたことで、事案ごとの裁きから、参照可能な条文の集合として提示される法の物語が成立した。書かれない慣習法は文字以前から存在するため、派生が主張されるのは成文法という形式の水準に限られる。新設のREL-0192(貨幣→法)により文字→貨幣→法という経路が生じるが、本エッジは規則の固定と公示という形式面の機構を主張するものであり、賠償額の通約という貨幣側の機構とは独立であるため、記法補則v1.1により維持する。

成立:前2100年頃 / 根拠:ジャック・グディ『The Logic of Writing and the Organization of Society』; マーサ・ロス『Law Collections from Mesopotamia and Asia Minor』; ジャン・ボテロ『メソポタミア——文字・理性・神々』

派生 Derivation 文字 → 帝国 確度B

徴税台帳、命令文書、度量衡の記録により、統治者の直接の面前を越えて指令と徴収を反復する行政が可能となり、広域支配を正統化する物語=帝国の運用条件が整った。既存のREL-0004(農業革命→帝国)とは別系統の条件を示すものであり、いずれか一方を単独の原因とする主張ではない。新設のREL-0191(貨幣→帝国)により文字→貨幣→帝国という経路が生じるが、本エッジは記録と命令の遠隔反復という、計量尺度とは別の機構を主張するため、記法補則v1.1により維持する。

成立:前2300年頃 / 根拠:ハロルド・イニス『Empire and Communications』; ジェームズ・C・スコット『反穀物の人類史』; ジャック・グディ『The Domestication of the Savage Mind』

派生 Derivation 文字 → 貨幣 確度B

粘土製トークンと印影から発展した記録体系が、穀物・銀を単位とする債務と価格の記帳を可能にし、計算貨幣としての価値尺度の物語を支えた。文字と計数のいずれが先行するかについては議論があり、両者を同一過程の二側面とみなす説もあるため確度はB。

成立:前3000年頃 / 根拠:デニス・シュマント=ベッセラ『Before Writing』; デヴィッド・グレーバー『負債論』; ジャン・ボテロ『メソポタミア——文字・理性・神々』

派生 Derivation 文字 → 印刷革命 確度B

手写による複製の制約を機械的複製が置き換えたことで、文字という物語は同一テキストの大量流通という新しい形式を得た。東アジアの木版と金属活字の先行的蓄積があり、西欧の活版はその系譜のなかの一形態である。

成立:1450年頃 / 根拠:Elizabeth Eisenstein, The Printing Press as an Agent of Change; Adrian Johns, The Nature of the Book

派生 Derivation 文字 → 日本の建国神話(記紀と万世一系) 確度B

記紀は、漢字と万葉仮名による表記が定着した段階ではじめて成立した。『古事記』は変体漢文で書かれ、『日本書紀』は漢文編年体をとる。文字化は伝承を固定すると同時に取捨選択をともない、『出雲国風土記』がスサノヲや大穴持命について記紀と大きく異なる像を伝えることは、中央で再編される以前の伝承層が別に存在したことを示す傍証とされる。文字化された本文がどの言語層に属するかは内在的な証拠から検証でき、『古事記』本文にのみ2種類の「モ」の書き分けが残り『日本書紀』『万葉集』では失われている事実がその例である。 なお、成立の経緯を記す『古事記』序文(上表文)の真偽は決着していない。1979年に奈良市で太安万侶の墓誌が出土して実在と没年が確認されたことを重視し、序文の記す経緯(天武の勅、稗田阿礼の誦習、712年献上)を基本的に信頼する立場がある一方、『続日本紀』に古事記撰進の記事がなく『新撰姓氏録』にも稗田阿礼の名がないこと、序文の文体・用語法が本文と乖離することから、序文を9世紀初頭(弘仁期)の後付けとみる序文偽書説も有力である(西條勉、三浦佑之ほか)。他方、本文までを後世の創作とする本文偽書説は、上代特殊仮名遣の証拠と墓誌の出土によりほぼ支持を失っている。本エッジの確度Bはこの未決着を反映する。

成立:7世紀後半-720年 / 根拠:『出雲国風土記』(733年); 橋本進吉(1917年、上代特殊仮名遣の再発見); 三浦佑之(古事記本文の言語層); 西條勉(古事記序文の用語法); 太安万侶墓誌(1979年出土)

対立 Opposition 古史古伝(周縁からの対抗史) → 文字 確度A

古史古伝の多くは、漢字伝来以前の日本に固有の文字(神代文字)が存在したという前提の上に立つ。これは、日本語の文字表記が漢字の受容から始まったという文字史の説明と両立しない。神代文字が近世以降の創作とされる根拠は、上代特殊仮名遣(キ・ヒ・ミ等における甲類乙類の書き分け)を反映せず平安以降の五十音図体系を前提としていること、表意文字の段階を経ずに整った表音文字が突如現れる点が文字発達史上不自然であること、阿比留文字がハングルと酷似すること、漢字伝来以前の遺跡・遺物からの出土例が皆無であることにある。上代特殊仮名遣は1917年の橋本進吉の論文によって広く知られたため、それ以前に作られた文字がこれを反映しえないことが年代判定の決定的な指標となっている。

成立:19世紀-現在 / 根拠:伴信友『仮字本末』(1850年); 山田孝雄以降の国語学界の定説; 橋本進吉(1917年、石塚龍麿『仮名遣奥山路』の再評価)